月別アーカイブ: 2009年12月

うわークリスマスです。

細かい電球が散りばめられて、
夜空に綿雲の様に浮かぶ菩提樹の並木を過ぎると、
其処はドイツはベルリンのクリスマス市です。
大きなシンボルツリーも輝いています。
「わー!ドイツのクリスマス到着です」
酸っぱいワインの匂いとソーセージの焼ける匂いが、
人々のざわめきの中に漂ってきます。

飛行機がベルリン空港に到着、
直ぐ我らは迎えのバスに乗って、
ベルリンのクリスマス市に向かいます。
此方の時間では午後八時過ぎ、
日本は、もう明日の朝です。でも我らは眠らず頑張ります。
空港から記念大通りをバスは走ります。
大通りにはドイツらしいアールデコの大きな外灯がともり、
行き過ぎて行く、あちらこちらの広場にはテントが立ち並び
クリスマス市が開かれていて、
移動遊園地の観覧車の光の輪が回っています。

我らの行ったクリスマス市は街中の教会前広場の
比較的、こじんまりとした所です。
ツアーの目の悪く無い人たちは、早くもその喧騒に
飛び込んで行ってます。
大きなテントの中に、小さな出店がいっぱいです。
僕とトレイス君、それに目の悪いご夫婦が一緒で、
添乗員さんと現地ガイドさんが着いてくれます。
日本の恵比寿市と東南アジアのバザールが
合わさった様な感じなんです。
ベルリン周辺の田舎から出店してるのでしょうか?
素朴な手作り品が並んでいます。

現地らしい物が欲しいな!と、
ガイドさんに説明してもらいつつ物色します。
「スリがでてますので」と、注意が入ります。
急いで財布を抑えます。其れが危険かも。
僕は羊の毛を固めて造った帽子と、
蜜蝋の蝋燭を記念に買います。
お金を払う時、皆さんで取り囲んでもらって、
財布を見せない様にします。

外は時折、みぞれが降って冷えてます。
全盲のお父さんは「ホットワインを飲みたいなー」と、
ずーっと言っているのですが・・・

もう夜の10時です、日本は夜明けを迎える頃でしょうか?
長い一日でした、
明日からもドイツ、チェコとクリスマスを廻って行きます。

メリークリスマス 前奏曲

スイス航空ですから、スイス、チューリッヒ乗り換えです。
EU入国です。入国検査があります。
「液体の持ち込みは駄目です」と、
機内で貰っていた水のペットボトルが没収です。
皆さんで「それは犬の為のです」と、言ってくれますが、
「駄目」の一点張りです。
「じゃ、そこで飲ませば」と、言う人も居ますが、
返してもくれません。

チューリッヒ空港で三時間近くの待ち合わせです。
どこもかも暖房で乾燥しています。
我らもトレイス君も水分が欲しいです。
添乗員さんに水を買って来てもらいます。
「わっ!高い」 サンユウロ50です。五百円位です。
「水返せ」です。何故あそこで水を没収するか、
どうしてもその考えとシステムが理解出来ません。

待ち合わせの間に、トレイス君のトイレもします。
あー、やっと、ワンもツーもします。ほっ!一安心!
それでは目的地のドイツ、ベルリン行きに乗り込みます。
国内線のエアバスは、予想どうり狭いです。
トレイス君の体の出っ張りと、座席の出っ張りが
同じ位置で動きが取れません。
それでもしゃがめば少しは楽かトレイス君は、
椅子の下に潜り込んで、ただ忍耐です。
でも、機内にはクリスマスソングが流れ、
徐々にクリスマスムードが盛り上り、期待が膨らみます!!

12月11日は何時まで続く・・・

此の狭い座席で十二時間辛抱です。
「気流の関係で45分、早く到着の予定です」と、
機内アナウンスが有ります。
ほっ!45分でも助かります。

「あち、ち、ち、ち」 コーヒーが足にこぼれたようです。
上役の乗務員さんが飛んできたり
後の座席が大騒動です。大丈夫かな?
温かい飲み物の提供が始って、こぼしてしまったようです。
我らの後ろは全盲の男性と弱視の奥さんです。
いろいろと事の詳細を把握するのは大変でしょうね。

僕は男性の添乗員さんと並んでいます。
そういう点では、面倒を見てもらえるので助かります。
二人の足元でトレイス君はうずくまっています。
「いいから、いいから!」と、添乗員さんは言ってくれるけど、
果たして、大きなトレイス君蛾居ると
足の置き場が有るのでしょうか?
食事提供も終わって、機内の明りも落とされると、
寝るしかないので、我らも寝ます。
トレイス君もどんどん奥に入って、僕の足元で、
自分のリュックを枕に、ぐっすり寝ています。

皆さんが寝静まって居る間にと、
半分過ぎのフライトが終わった頃、真っ暗中
トレイス君のトイレです。トイレベルトを付けて、
一番後ろのトイレ前の僅かなスペースでワンツーです。
オシッコは出たけど大は出ません。
旅に出ると、我らも便秘ぎみです。トレイス君もでしょうかね。

乗り継ぎのチュリッヒ到着です。
十一時間あまり掛かったかけど、8時間の時差があるので、
まだ十一日の昼が過ぎたばかりです。
まだまだ十一日は続きます。

ゲッ!狭まー!

乗務員のお姉さんに案内されて、
あ、そうそう何だって最近はスチアーデスと言わないで
キャビンアテンダントとかに成って、
自らは乗務員です。と言うように成ってます。が・・
予断でした。案内された席はです。
真ん中あたりから少し後の窓際の普通の席です。
「えっ!ここですか?」
添乗員さんに、「取り合えず入って座って」と、急かされます。
「トレイス君も中に入れて」と、言われます。
「げっ、狭まー」と、トレイス君入りたがりません。
引っ張りますが、大きなトレイス君、
座席に挟まれ動けません。うんうん、やっと半分入ります。
わーっ!一般の方が雪崩の様に乗り込んできます。
「トレイス君、尻尾引っ込めて」、踏まれそう。
慌てて、トレイス君の尻尾を抱きこみます。
「添乗員さん、こんな席しか無いんですかー?」
「此処が少し広いんだって」。と言われても、
他の席と何ら変わりない気がしますが・・

それでも、トレイス君も諦めて、
段々と座席の下に潜り込んで来てくれます。
落ち着いた頃です。
「荷物を忘れたーぁ」と、
我らのメンバーの誰かが騒いでいます。
先ほど免税店で買った品物を早くも
出発ゲートの待合室のソファーに忘れたようです。
ゲートも飛行機のドアも閉まったので、
「地上とは連絡取れません」と、
乗務員さんに言われてます。
我らがメンバー大丈夫かね!!

機上の犬に・・・

それから、ツアーの皆さんと合流、
先に送っていた大型トランクも受け取って、
搭乗手続きに入ります。

此の旅行で一番ラッキーなのは、
春頃に比べてヨーロッパ通貨のユーロが
とても安いです。
それではと、旅行社の方にお願いして、
少々換金しとおきましょう。

そうだ飛行機に乗る前に
トレイス君にトイレを済ませてもらわねば。
小は直ぐ出たのに、大は出ません。
トイレの中でワンツーしてるのですが、
手の乾燥機のガァー音と風が気に成って
「こんな所じゃ出ないよー」と、トレイス君
べそかいってます。

「もう皆さん搭乗ゲートに行きました」と、
添乗員さんが呼びに来ます。
トレイス君とうとう大は出てません。
「まだ時間が有るでしょう」と、尋ねると、
「女性の方はお買い物がしたいので」と、言われます。
早くも免税店を廻っています。

搭乗ゲートに着きますと、
優先搭乗で、直ぐ乗り込めます。
飛行機の入り口には乗務員のお姉さんが
勢揃いでお迎えです。
トレイス君、意気揚々と乗り込みます。
大きくってハンサムなトレイス君に
お姉さんたち、わぁーわぁーと喚声です。
トレイス君大きく尻尾を振って応えます。
あー、トレイス君、機上のワンちゃんに成ります。

検疫合格

フロントから助けが来て、
無事五階のエレベーターホールから救出です。
バスにも間に合って成田空港に到着です。

もう一人の盲導犬ユーザーのヒロさんと、
トレイス君の検疫所に案内して頂く添乗員さんとの
待ち合わせ場所に急ぎます。
ヒロさんの友人が先導で急ぎます。

あれっ!その友人の姿が、
広い出発ロビーを曲がって、曲がって
行ってる間に見失います。
僕は明るい方に行きたいし、
トレイス君は左の壁沿いを歩きたいし、
方向性は千路に乱れて迷子です。
あ、こんな広いところで迷子に成ってはいけません。
元の角に戻って、救出を待ちます。

そして添乗員さんとも合流、検疫所に急ぎます。
検疫所は2階の通路の随分奥まった所に在ります。
動物病院で作ってもらったワクチン接種の証明書、
旅行社が作ってくれた英訳書類のチェックです。
そして、トレイス君のマイクロチップの確認です。
いろいろ書類の照合などで手間取りますが、
動物病院の獣医さんの手を何度も煩わせ、
出発まで大変苦労しましたが、見事合格です。
「これで行けますよ!」と、添乗員さんも安堵です。
ほっ!

冬の旅は雪だるま状態

冬の旅は寒さ対策の重ね着で
ごろごろと成ってます。
その上に荷物がいっぱい、
とても動きが大変です。
でもJRの乗り換えも駅員さんのサポートで
無事成田航空ホテルに到着です。

宿泊拒否などした割には、かなり親切です。
裏庭でトレイス君のトイレも手伝ってくれます。
ビジネスホテルタイプなのに送迎バスとか、
簡単な夕食も付いてます。
訴えるのは止めておきましょう。
明日は早目に出立です。早目に寝ます。

「皆さんおそろいです。バスが出ます」と、
フロントから電話です。
七時半のバスに乗らねばいけません。
一時間早目に行って、トレイス君の
検疫を受けねばいけません。

部屋をあわてて飛び出して、方向を見失います。
夕食の時も朝食の時も難なく乗れたエレベーター、
何処に在るのか分りません。
エレベーターホールをぐるぐる回ります。
部屋に帰ってフロントに電話しようと思っても、
今度は部屋にも帰れません。
トレイス君も何処に行けばいいのと困り顔。
このエレベーターホールは少し変形で、
部屋の廊下が何本か斜めに走ってます。

もう一度、気を落ち着けてと、
ホールの真ん中で深呼吸です。

出発の朝・・

12月10日朝、ドイツ・チェコのクリスマスに出発です。
「ちゃんと帰って来るんよ!」と、
庭先まで見送りに出てくれた隣のばぁちゃんが
トレイス君の頭を撫でながら言います。
「ワン吉もつれて帰ってよ!」と、お願いもしてくれてます。
車が来ます。
隣りのばぁちゃんの「必ず帰ってくるんよ」の声が、
閉まったドアの外に聞こえます。
心配なんだろうな。心配かけてるな!と、
ちょっぴり胸が痛みます。

大きなトランクは先に空港に送りました。
トレイス君の八日分のお弁当が詰まっています。
トレイス君のオシッコ固めの紙砂、温かコート
トレイス君の物でトランクの半分はいっぱいです。

トランクは送っても、それでも荷物はいっぱいです。
ショルダーバックにはパスポート、検疫の書類、
お金にお薬など大切な物を入れて肩からかけます。
背中のリュックには、
トレイス君の二日分のお弁当、トイレベルト、
そして、僕の一回分の下着の変え、髭剃り、歯磨など、
それらでいっぱいです。

トレイス君の敷物と、タオル、
レインコートはリュックに入りません。
それで、先日ネットで買った、
ワンちゃんのリュックに入れて、
トレイス君に背負ってもらいます。

真っ赤なリュックは明るい毛色のトレイス君に似合います。
それに合せて、赤い首輪、赤いリードも揃えます。
ハンサムなトレイス君を引き立てる旅姿です。

では 出発です。

ただいまぁー!

飛行機がシベリア上空に帰ってきます。
「あと3時間で東京成田に到着です」の
アナウンスが有ります。
無事帰れたんだ。ほっとします。
ほっとすると、涙が溢れてきます。
「帰って来れたんだ」と、安堵します。
盲導犬トレイスは僕の足元で
すやすやと眠っています。
「トレイス君ありがとう」と、無邪気に
眠っているトレイス君に声を掛けます。
この旅はトレイス君に連れて来てもらった旅です。
事情の分らない海外の旅
トレイス君はどんなに不安だったでしょう。
いつもも歩く道は無し、知る人も居ない。
街の匂いも知る物で無く
狭い座席での長い時間の窮屈な態勢
全部、何も言わず付き合ってくれました。
そして無事攣れて帰ってくれました。

感謝の気持ちがいっぱいに成ります。
そして、旅の日々の
困難や感動が重なり合って思い出され
また涙が溢れて頬をつたいます。

真っ暗な機内に明りが点き、
朝食が出され、直ぐ着陸態勢です。
機体は急速に高度を下げていきます。

ど、ど、ど、どぉーと、機体が揺れて
日本到着です。
ただいまー!唯今、帰りました。