月別アーカイブ: 2010年1月

トイレ一人旅!

「盲導犬と行く ドイツ・チェコのクリスマス」と、
頭に書いたパンフレットで募集したツアーです。
何故O女史ファミリーは盲導犬に配慮もせず苛立つのです。

空港ロビーに入ります。
カウンターでチェックインです。
終わると何もする事無く其の辺りでぼんやり立ってます。

全盲のお父さんが「トイレ」と、言います。
添乗員さんを探してもらいます。
添乗員さんは航空会社の人と話してます。
ではと、弱視のお母さんに、僕と二人をトイレの前まで
案内してもらいます。中は女性は無理です。
左手に大きな窓が在って明るいです。
でも、トイレの場所が分りません。「誰か居ませんか?」
あ!誰か居ました。全体に黒っぽい大きな青年です。
個室の所に案内してくれます。小便器は見当たりません。
便器や流すボタンを、見当を付けて探して、
お父さんに教えます。
終わって、お父さんをトイレ前で待つ
お母さんの所まで送ります。
初めての場所、目の悪い同士では大変です。やれ、やれ!

それから僕はトレイス君のトイレです。
チューリッヒまでの飛行機は狭くって
トイレなどには行けません。
トレイス君にトイレベルトを付けて「しっかり出して!」と、
ワンツー、ワンツーです。
そんな目の前に、巨大きな影が迫って来ます。
誰も居無くなったトイレ。恐怖です。

恐怖女 ダブルです。

「盲導犬ユーザーはね、人より早くしなきゃいけないの」
空港建物内でメンバーさんが一塊に成ってる所に追いつくと
ユーザーHSはヒステリックに叫んでいます。
何だろうね。いち、に分遅れただけです。
「ユーザーはちゃんとしてネ」と、言い放ちます。
ナチドイツのヒットラー総統が乗り移っています。
「やってるよ」と、言いますと、
「出来てないから言ってるの」と、睨みます。
お、お、お、そんなに怒るほどの事ですか???
慌てて怪我するより益しですよね。
障害者は余裕の有る行動が必要です。
トレイス君はびっくりで尻尾を巻いてしまいます。
メンバーさん達は関係無しで、しらーです。

それからエレベーターで降りてす。
ユーザーHSが何か冗談を言ったのですが、
誰も笑いません。
又、一階から空港バスで空港内を移動です。
バスの中でも皆が押し黙っていて、
まるで犯罪人を乗せた護送車です。
本当に腐ったツアーです。

「スペイン旅行では、盲導犬のトイレの出来る芝生を探して
空港内を走ってもらったわ」と、
O女史が過去の旅行の事を言います。
「あ、そうだ!」、バスが停まったので、
トレイス君のオシッコに挑戦です。
ワンツー、ワンツーと掛け声かけて回していると、
「袋で出来るんでしょ」と、後から降りてきたO女史が
横を通り抜けながら、白々しく言います。
スペインでは気を使ったのに、
今日は、一分も待つ気が有りません。

トレイス君は雪が嫌!

プラハ空港までのバスの中です。
「部屋の中をお探し申し上げたのですが、
マフラー見つける事が出来ませんでした」と、
添乗員さんが嫌に丁寧な口調で言って来ます。
あ、あ何処に行ったのでしょう。
もしかして、昨日のメイドさん達が
持って行ったのでしょうか?
それとも荷造りの時トランクへ入れてしまったのでしょうか?

バスはプラハ郊外に出ます。
辺りは真白です。昨夜の雪が降り積もっています。
プラハ空港到着です。
「ユーザーHSさんがワンちゃんにオシッコさせてますよ」と、
誰かが教えてくれます。
急いで僕らも降りようとします。
「あれー、雪、冷たそう!」と、
トレイス君はバスの入り口で尻込みです。
昨夜の冷たさが身に堪えているのでしょう。
あ!今朝もです。「今日は出掛けたくないよ」と、
部屋の隅に隠れてしまいました。
何時もは出掛ける身支度を始めると、
僕の足元に擦り寄って来て、
「置いて行くなよ」と、纏わり付いて離れないのです。
今朝は出掛けるのを真剣に嫌がります。
南国育ちのトレイス君は凍結した路面は初めての経験?

それでも無理にバスから降ろして、
雪の野原でワンツーです。
何だか嫌だな!て顔をして、トレイス君はワンツーしません。
ツアーメンバーさんは急ぎ足で空港内に行ってしまいます。
トレイス君は焦っています。
仕方がないのでトイレを諦め、
メンバーさんの後を追います。

「盲導犬ユーザーはね」と、
いきなりユーザーHSが怒鳴っています。
「な、な、何!」

立つ鳥あれこれ・・

あっ!そうだ下りの操作にはカードキーは要りません。
部屋に入って思い出します。
部外者の進入を防ぐ為、上りだけ使います。
メンバーさんも、思い出してくれたでしょうか?

さぁ!帰り支度です。トレイス君にトイレをさせて、
昨夜洗っておいたTシャツを着せます。
飛行機の狭い空間で臭っては困ります。
洗って、電気スタンドの傘に干しておいたら、
すっかり、すっきり乾いています。
忘れ物は無いでしょうか?
そこら辺りを撫で回して見ます。何も無し!
此のホテルの一つ良い事、発見です。
クローゼットの中にライトが点きます。
で、クローゼットにも何も無し。

フロントに降りてチェックアウトです。
冷蔵庫の水一本飲みました。清算です。
「えーっ!八十コロナ?」、五百円もします。
巷では三分の一の三十コロナまでですね。
二十コロナ足りません。「誰か恵んで下さい」
弱視のお母さんが用意してくれます。ほっ!

では、出発です。ホテルのドアを出ると、
ぴゅーっと、冷たい風が顔に刺さります。
「うっ!マフラー!」、マフラーしてません。忘れてます。
PWさんがトレイス君とお揃いに作ってくれた僕のマフラー
其の声を聞きつけた現地ガイドさん、連絡に行ってくれます。

人間的な人も居た!

12月17日です。
朝、前の部屋のメンバーさんが朝食の時誘ってくれます。
何気無い事ですが、嬉しいです。
レストランに下りて行くと、添乗員さんが飛んで来て、
席に案内してくれます。
飲み物の給仕にウエイターさんが来ます。
「食べ物も取って来てもらいましょうか?」と、
添乗員さんに言いますと、
「まだO女史が来てないな」と、
メンバーさんが居る方の席を見渡して言って、
「いいや!」と、彼が取って来てくれるようです。
でも、何だか僕らだけ離れた隅の席で、
別に悪い事もしてないのに、こそこそしてます。
添乗員さんは荷物の整理が有ると、先に席を立ちます。
僕としても、味気無くって、だいぶ残して
早々に切り上げます。

トレイス君と帰ろうとすると、
前の部屋のメンバーさんが来てくれて、
エレベーターの案内をしてくれます。
エレベーターはカードキーを差して、
五階のボタンをおします。ボタンは段違いに
二列になってるので、手探りで難しいです。
メンバーさんが操作してくれていると、突然ドアが閉まり、
あ、あ、あっ!二人を乗せたまま五階に上ってしまいます。
メンバーさんはまだ食事の途中です。
カードキーを持って無いので階段を下りて行きます。
「わー!申し訳ないです」、
メンバーさんは「良いのよ!」と、笑顔です。
何だか久しぶりに人間的な人に会った様な気がします。

四冊目のパスポート

「御挨拶を」と、言われます。
誕生祝のお礼を言わねば成りません。
僕は四冊目のパスポートの事を話します。
一冊目は二十代、一人旅をしました。
夜盲は有りましたが、まだ見えていました。
二冊目は四十代です。書類は見えなく成っていました。
余裕の出来た友人達と一緒に行きました。
三冊目は五十代です。一人歩きは困難に成っていました。
家族に付き合ってもらったり、
障害者団体の旅行に参加しました。

三冊目のパスポートは今年の五月まで有効です。
これで海外旅行は終りにしようと思いました。
でも、最後にトレイス君とヨーロッパの街を
歩いてみたかったのです。
盲導犬ト行く、バリアフリーツアー、ドイツ・チェコのクリスマス
の案内が届きました。

それから一気に話しを盛りあげて、
トレイス君と歩いた古都ドレスデンの素晴らしさ、
ヨーロッパの街がぴったりのトレイス君の事、
外国の方々にも人気者だったトレイス君の事、
楽しかった数々を話したかったのですが、
屈辱的なO女史の暴言、ユーザーHSの嫌味な態度が
思い出されて何も話せませんでした。

此の旅行は六月まで有効のパスポートを
持っていないと参加出来ませんでした。
それで四冊目のパスポートを取る事に成ります。
四冊目は六十代です。もう残存視力は少ないです。
トレイス君と外国の風を感じて歩いてみたいです。
外国の皆さんと親しく振れ合って見たいです。
折角取った四冊目のパスポートです。
無駄にしないよう、これから十年、
頑張って楽しい旅行をしたいです。

「四冊目のパスポートを無駄にしないよう
此れから十年も頑張ります」と、だけ話します。

宴会は終わります。
背の高いウエイターさんがドアの所まで送ってくれます。
外に出ると、降った雪が路面に凍り付いてます。
歩道の石の上にも凍った雪が張り付いてます。
おっと、と、と!石を踏むと滑ってこけそうです。

今夜限りです。

がまん!我慢!がまんです。
あの夜以来あまりO女史とは接触は無かったので
苛立つ事も少なかったのですが、此の人、やっぱり変です。
目の見えない人の前で 「パン取りなさいよ」って、
パンカゴを振れるような人はどうかしてます。
あ、あ、今夜限りでさよなら、終わりです。

「甘やかされて育ったのね」と、僕の事を言ってます。
甘えた性格ね!と、言ってるのです。
「じゃ、貴女のような性格は、どんな育ちです?」と、
言ってやりたかったけど、今夜はこれも我慢です。
本当に如何すれば此処まで人間性が欠如出来るのです?

各テーブルにアコーデオンが回ってきます。
「リリー マルレーを聞きたいわ」と、
人を凹ませておいて、そんな事は意に関せず、
また妙にはしゃいだ声に成って言ってます。
かなり宴会好きのようです。
何曲か進んで、アコーデオンの演奏が
「上を向いて歩こう」に成ってます。
皆だ歌います。皆さんじょうずです。
題名は忘れましたが有名な長い曲です。
全盲のお父さん、とてもいい声で歌います。
さすが最初の買い物がピアノだったのがうなずけます。

「Oさんからです」と、大きなケーキが運ばれて来ます。
クリスマス生まれの僕と、12日生まれのユーザーHSの
誕生祝、バースディーケーキです。
げっ!ケーキの天辺にワン吉とHSの名前が
チョコレートの板に白いクリームで並んで書かれてます。
なんとも複雑!!
「コーヒーもお願い」 「わたしのおごりー」と、
O女史はしゃいでいます。

お別れ会

「ホワイト クリスマスだな!」と、誰かが言いながら、
細かい雪の降るなかレストランへと急ぎます。
此の辺りは旧市街でしょうか?歴史的建物は無いけれど、
古いビルに商店が続いています。
何だか歩道も石畳でごろごろしています。
車椅子さんは運転大変でしょうね。
何ヶ所か、歩道を降りて車道を横断せねば成りません。
車椅子は段差の少ない所を探して
歩道の乗り降りをしなければ成りません。
添乗員さんも良い道を探して行かねばいけません。

「今夜は賑やかなビヤホールをオーダーしたの」と、
O女史は妙にはしゃいでいます。
「一般の人と混ざれる席はないの」と、
ビヤホールに入ると、用意された席にクレームです。
「生憎どこも予約で満席です」と、言われます。
ここはツアーの団体さんが来る店のようです。
前隣の団体さんは韓国?かなり盛り上ってます。

何故か僕の隣の席はO女史です。
今夜も何か起こらなければ良いですが?
先ずはビールで、全盲のお父さんの音頭で乾杯です。
雪の中、一生懸命歩いてきたので、
冷たいビールの一口が美味しいです。
メインディシュは牛肉の煮込みです。
肉は筋ほくって不味いです。
「パンいる?」と、O女史が言うので、
「はい」と、言って手を出すと、
「自分で取りなさい」と、言われます。
「え、えっ!」 パン何処です。
O女史はパンカゴを僕の目の前で振ってます。
む、む、む、むっ、!

車椅子さんとは行きませんよ!

トントンとドアが叩かれ、今度は間違いなく夕食の時間です。
前の部屋の彼女たちに誘われて出掛けます。
落ち着いて五階のエレベーターホールを見ると、
ホールは有りません。
階段の踊り場のような、
ちょっとしたスペースが在るだけです。
でも僕らは、暗い壁はどんなイメージも描けてしまいます。

一階のロビーには
粗方ツアーメンバーさんは集まっているようです。
「車椅子かんが調子悪いので気を使いなさいよ」と、
盲導犬ユーザーHSが何処からか現れて言います。
「大丈夫、添乗員さんと行くから」と、応えると。
「一人で歩けないの」と、軽蔑したように言います。
かっちんと来る言い方だったので、
「あぁ、駄目だね。足も捻挫してるし、古傷も痛いし」と、
言ってやります。
ユーザーHSは、ふん!という感じに
黙って向こうへ行きます。うっとうしい女です。
足の捻挫は大した事は無いのですが、
二ヶ月前に折れた右手首や肋骨が、
疲労と寒さで、昨夜からきりきり痛みます。

僕はトレイス君と夜道でも、何処でも歩けます。
でもトレイス君は目的の方向は分りません。
足の長いトレイス君のペースで歩いていると、
皆さんよりどんどん先に行ってしまいます。
すると添乗員さんが我らを
追いかけて来なければなりません。
それだと同時に面倒を見ている、目の悪いご夫婦と
車椅子さんを置いてきぼりにしてしまいます。

O女史ファミリーは、非難や命令はします。
でも決して提案はしません。
例えば「今夜は車椅子さんが疲れているから
私達と行きましょう」とは、言わないのです。

今夜のお別れパーティーのレストランまでは歩いて
十五分ぐらい掛かるそうです。
添乗員さんがやって来て、車椅子さんも探しています。
「駄目ですよ!今夜は、僕は車椅子さんとは行きませんよ」
「車椅子さんも疲れて、自分の事でいっぱいいっぱい
だと思いますよ」と、言って、
車椅子さんに着いて行くのを断ります。
もし、其の事でO女史が何か言って来たら、
「今夜のパーティーには出ない」と、言うつもりです。
腹は減っているけど意地です。
添乗員さんは黙って僕の横に付いて歩き始めます。
外は雪です。プラハに寒波が押し寄せてます。

プラハで大捕り物!

エレベーターでフロントまで降りて行きます。
我がメンバーの一人が英語で説明します。
もう一人が携帯で添乗員さんを呼びます。
僕はふたりの女が逃げないように捕まえています。
でも体力では負けそう、それにトレイス君は我関せず、
傍観の構えで、あっち向いてます。
しかし、ふたりの女は観念したのかおとなしくしています。

あれっ!フロントの明るいライトがふたりの女に当たると、
ふたりの女はメイドの制服を着ています。
あれ、れ、「ルームキイパーさん?」
添乗員さんが駈け付けて来て、
フロントさんと、二言、三言話して、僕らに説明です。
やれやれ、やっぱり、メイドさんです。
「こう言う高級ホテルでは何度も部屋の整理に入るんです」
と、添乗員さんは言います。
チョコレートはチップのお礼みたいです。
でも疑問です。
此のホテルが特別高級にも思えません?
もう一つ、何故、あんなに朝の早い時間とか
客が部屋を出た直後に直ぐ入るのです??

「あと、一時間後に集まって下さい」と、
添乗員さんは帰っていきます。あれー、
またまた、あれ、れ、です。
僕らは一時間早く来てしまっています。。
でも僕はすっかり腹が減ってます。
捕り物劇が有ったし、昼はケーキだけでしたね。