僕のこころに響く場所

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  NHK 「日本巡礼」 さま

僕は網膜色素変性症の視力障害者です。
 数年前、地元の病院の眼科医とトラブルが有り、落ち込んでいる時です。高知の同じ患者の方から高知県中村の眼科医を紹介されます。
 春、未だ浅い時でしたが、意を決して診察に行きます。

 診察は無事終わり、僕は近くに住む友人宅を訪ねます。泊めて頂いて、朝の散歩の時です。昨日、降っていた雨は上がり、清清しい朝です。
 何処にでも在る様な田畑を行くと、暗いほどに繁った二重に防風林の様に成った松林が在ります。其の松林を過ぎると、朝の光に眩しいく煌く海が見えます。海は大きく波立ち、地平線のずーっと向こうから、ざぶーんざぶーんと押し寄せて来ています。
 「えっ!日本にも、こんな景色があるんだ」と、其の雄大さに驚きます。初めて見る景色の様であり、どこか根源的な懐かしさに見舞われます。
 
 其れから時々、其の景色を夢に見ます。輝く松葉の先端、盛り上がっては大きく砕ける波頭、鮮明に映し出されます。
 かと言って、果たして其の時、其の景色が見えたのでしょうか?一人歩きも困難な僕に其の景色を見るだけの視力は無かったはずです。その景色は僕のなかで作り上げられた映像かも知れません。霞んでいく視力の中で微かに見えた最後の希望の風景を純化させているのかも知れません。

 夢では、どんな小さな光の粒々、草木の繊細なそよぎも見えます。不思議な事に、夢のなかでは景色は変化していきます。島に成ったり、谷間に成ったりします。
 現実の物がほとんど単調な灰色に成りつつある今、地球のエネルギーと色彩を持って押し寄せてくる風景は、僕に何らかの力を与えてくれている様な気がします。

  トレイス&仙波ワン吉