黒い防風林の向こうは、押し寄せる太平洋

三日目の朝の四時四十五分は
未だ夜は明けず、
二、三の街灯の明かりが見えるだけです。
それなのに,やばい、闇の中から散歩犬が来ます。
暗い中にウグイスが鳴いています。
八年前も鳴いて多用な。この辺りの誰かが飼育していると
友達から聞いたかな?と、思い出します。

少し、東の空が透けてきます。
8年前の感動の出会いに出発です。
暗い道をトレ君は力んで導きます。
8年前は、ぎこちなく白杖を突き、舗装の窪みに
先を取られたり、ガードレールに当てたりしながら行きます
直ぐモリモリと繁った松林の防風林行き当たります。
厚い、深い、絡みつき、襲い来るような松林です。
僕の細い白杖は、情けなく曲がり折れそうです。
八年前は吹きつける寒風に、松林はざわざわと
不気味にざわめいています。
辛かった過去が追いかけてくるように
失明していく僕を脅かすように、鳴っています。
恐々与太りながら歩いて松林を抜けると、
砂地のラッキョ畑に出ます。
また、直ぐ前に松林が広がっています。
初めの松林に比べ、幾分か若木の、
ざわめきも軽い松林です。
松の根っこや雑草を白杖で避けながら
足元ばかりに気を取られ、必死の思いで
歩いて行きます。
ふっと前方に明るい光と、清清しい風を感じて、
顔を上げると、もう松林はおわり、
目の前いっぱいに煌いて波立つ海が広がっています。
わっ!と、驚きの声を上げ、その場に立ち尽くします。
「海だ!」と、叫んで白杖を海に向かって突き刺します。
海は映画のスクリーンのように、歌舞伎の舞台のように、
色鮮やかに、幾重もの波頭が押し寄せています。
其の景色は、強い太陽の光が当たり、
きらきらと輝き、激しい波音も伴っているのに、
どこかステージの上の出来事に記憶します。

再びトレ君と来た感動の地は・・