ローマン建築

 26-イタリアはエッチ
 
 ベルニナ・エクスプレスの車内放送はドイツ語とイタリア語です。
スイスに入って暫くドイツ語ばかりだったので、
久しぶりのイタリア語は色っぽく聞こえます。
何だか女性に耳元で囁かれているような気分です。

 氷河期の様な白い凍てついた岩山がだんだん遠のいて、
雪の山も野も薄らいで、山並みが穏やかになり、
線路脇に糸杉や家並みが目立ち始めイタリアらしい風景に・・
自主的さんがそわそわし始めます。
リュックから一眼レフの大きなデジカメを取り出し
何かを狙おうとしています。
 あっ1ベルニナ鉄道のハイライト、
三百六十度回転するブルージオのループの石橋に差し掛かるのです。
 何度かテレビでみました。美しいローマ時代の水道橋のような
三階になったアーチの上を列車が走ります。
見えたー!と、自主的さんが興奮してカメラを構えます。
僕も見えないけど狙いを定めてバッシッ、
駄目だー!、橋の前に手前の家の洗濯物が被さっている!と、
自主的さんが叫んでいます。えーっ誰だ洗濯物をほしたのは!
ゴトゴトゴトと列車の車輪の響きが変わってきます。
石橋に差し掛かったのです。
右だ!と、言ってますが、見えない。
僕の目で追っ掛ける野は無理です。
すみません!一枚でも撮って下さい!と、添乗員さんに撮影を任せます。
列車はループ鏡を回転して行きます。
左だ!ひだりだよ!と、自主的さんの指示で左の窓に・・・
あー!、線路脇の木の繁みが被さって見えません。
次は右!と言われても僕の視野と視力は着いて行けません。
がっくり、諦めかけた時です。
山際からループの石橋が、平地へと鉄道を下ろそうとする寸前、
僕の目にも鮮やかに石橋の全貌が見えます。
三層に積み重ねたアーチがローマの砦のように
ぐるりと回って、アルプスを背にし、日差しに輝いています。
テレビでみるより、ずーっとロマンティックな幻想です。

 列車はブドウ畑やオリーブ園を抜け、
未だ夏の名残のイタリアに着きます。